四日目は一番楽しみにしていた太郎平から双六小屋までのレグ。
距離は長いが黒部五郎や三俣蓮華の巨大なカールを滑る日だ。
天気は快晴、風はない。正面には北ノ俣岳までのなだらかな尾根
振り返れば薬師岳の広い尾根が大きく広がる。思わず息をのむ。

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太郎平からの薬師岳

この日は朝からシールを貼って意気揚々と北ノ俣岳へ。
そこからシールを外し黒部五郎の北西斜面へと一気に滑り込む。
この斜面はシールで登り始めたが、途中でアイゼンに切り替える。
ここで滑落したら時間を失う。時間を失ったら楽しめない。

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右からこの日に通過する太郎山、北ノ俣岳、黒部五郎岳

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太郎山で見つけた大きな熊の足跡
恐らく前日夕方のものだろう。

オートルート4
北ノ俣岳に遊ぶ雷鳥の親子

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北ノ俣岳からの黒部五郎岳(正面)  

登りきると見たこともないほど大きなカールが目の前に広がる。
雪庇の先はほぼ垂直に落ち込んでいて、まず近寄り難い。
カールの端に雪庇の落ちた箇所を見つけ、中を覗き込む。
飛び降りるかのように滑り出し、できるだけ大きくターンを描く。
それでも大きな壁に細い線を残したにすぎない。
途中何度も腿がパンパンに張って立ち止まり、その度に振り返る。
目の当たりにしてもなお、その大きさを正しく受け入れられない。

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黒部五郎岳のカール(ドロップ・ポイントから)

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黒部五郎岳のカール(下から)
カールの奥右手の岩(写真中央)と
その更に右の岩との間からドロップ・イン 

黒部五郎小屋にたどり着くとすぐ目の前が三俣蓮華の取り付きだ。
滑ると感嘆する大きな斜面も登る時には辟易する。
腐りかけの雪の上を行ったり来たりしながら少しずつ高度を稼ぐ。
この四日間、スキー・ブーツの中で汗をぐっしょりかいている足は
皮膚がふやけてウールの靴下に負け、あちこちですり減っている。
テーピングで保護しても汗と血ですぐにテープが剥がれてしまい
疲れと痛みで集中力が続かない。
なんとか登りきった最初の小ピークで立ち止まり、思わずため息。
その時何気なく来た方向を振り返った。そして思わず凍りついた。
さっき滑った壮大な黒部五郎のカールが目の前に広がり、
そこから奥の北ノ俣岳まで優しい稜線が波を打って繋がっている。
更にその右には今朝歩き始めた太郎平が大らかに広がって
昨日強風で苦労したとてつもなく大きな薬師岳に吸い込まれている。
今まで見たこともない静かで大きくて優しくて白い世界が
自分の背後に広がっていたことに今初めて気がついた。
なんて大きな世界なんだろう?何故か不思議と涙が溢れてくる。
そしてそこにはなかなか三俣蓮華に辿り着けない自分の小さな足跡が
薬師の更に向こうから今立っているところまでずっと繋がっている。
でもまだここがゴールではない。気を取り直して再び歩き始める。

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三俣蓮華岳への尾根から来た方向を振り返る
(左の山が黒部五郎岳で右が薬師岳)

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三俣蓮華岳(尾根線の先の画面左側のピーク)

三俣蓮華のカールは大きいというより深い。そしてまた長い。
面倒臭いのは三俣蓮華の山頂と目指す双六小屋との間を横切る
無名のピークからの尾根線だ。この尾根の向こうに小屋が見える。
でも尾根の向こう側から小屋までのルートは隠れて見えない。
また小屋は尾根の向こうに谷を挟んで浮いた感じで見えるので、
尾根と小屋の相対的な高さの感覚がつかめない。
だから尾根のどこを目指して滑ったら良いのかよく分からない。
まずはちょっとずつ様子を見ながら滑りましょうとか言いながら
調子に乗ってあっという間にカールの底に到着。
見上げると50mほど高いところをトラバースするトレースを発見。
シールを付けて少しずつ登り返しながら尾根を越えることにした。
で、尾根についてびっくり。まず目の前に広がる這松の群生。
そしてこの藪を漕いで抜けた先に広がる広大な谷。気が遠くなる。
更に急斜面のトラバースを避けられない箇所もいくつか。
ちょうど太陽が稜線の向こうに隠れて気温も下がり始めた頃だ。
雪面が凍ってエッジもシールも効かなければ滑落は避けられない。
何れにせよ、黙って歩き始めるしかない。。

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三俣蓮華岳のカール越しに見た槍ヶ岳

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三俣蓮華岳のカール
画面奥右の二つの岩の間からドロップ・イン 

結局グリズリーに遅れをとりながら、無事双六小屋の上に出た。
こうして楽しみにしていた長く、辛く、楽しいレグを終えた。

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双六小屋


コースタイム
 0630:太郎平
 0815:北ノ俣岳
 0830:赤木岳
 1100:黒部五郎岳
 1500:三俣蓮華岳
 1700:双六小屋

メンバー
 グリズリー、ブナ(記)