木々の間に無理矢理張った傾いたテントの中で目が覚めた。
既に何度も目が覚めていたが、今気がつくと辺りは明るい。
濡れた寝袋を体から剥がして起きる努力をする。

テントの外に出ると、相変わらず雨が降り続いているようだが
穂高の天蓋に守られて大粒の雫がバラバラと落ちてくる程度。
無言のまま中まで濡れたザックにスキーをくくりつけて背負う。
昨日に増してずっしりと重い。そしてまた無言のまま歩き出す。
薮は相変わらず複雑で、しつこく体やザックや板に絡みつく。

程なくして目の前に白出沢が現れた。
薮から沢筋へ安全に下りられる場所を探して本流近くまで下り、
今度は渡渉点を探して沢筋を遡る。
橋は無い。流れは昨日からの雨で怒涛のように駆け抜ける。
川幅が広いところで水流が小さくなっているはずだ。
でも川幅が広いと視界が利かない。苦労して中洲まで渡っても
その先に渡渉点がなく引き返す場面もしばしば。
最後、夏道の渡渉点であるだろう場所に望みを託す。
沢の中央に流れの激しい場所があるが、ワン・ポイントだけだ。
ガッシリとスクラムを組んで早瀬を渡る。腰まで水に浸かった。

ここまでくるとまずは一安心。あとは林道歩きだけだ。
ずぶ濡れのスキー・ブーツを脱いでスニーカーに履き替える。
とは言え、濡れた装備と濡れたブーツを積んだザックは重い。
背負うと前頭葉から血流がさーっと引いたような気がした。

そして平湯でずっと着込んだ臭い服を脱ぎ捨て、汗を流す。
気がつけば双六小屋で取った朝食以来、何も食べていない。
立山に車を回収しに行く途中、富山の町で寿司屋に入った。
こうして五日と予備日を使った六日間の山行は終わった。

最後に、パートナーのグリズリーには非常に感謝しています。
このルートを安全に完踏するには経験に裏打ちされた
冷静な判断力が必要で、成功はグリズリーによるところです。
また自分にもっと技術と体力があれば、更に短い時間で
全行程を踏破することができたと思います。
そこを承知で今回のオートルートを企画して頂けたので、
自分では見ることのない世界を経験することができました。
ありがとうございました。


コースタイム(記録なし)
 朝:飛騨沢ブドウ谷付近
 昼:新穂高温泉

メンバー
 グリズリー、ブナ(記)